太陽系外から来た何かこと A/2017 U1 が盛り上がっている。離心率が \( e = 1.197 \) というのは確かに見たことがない。離心率が 1 を超えている彗星はたまにいるが、たまたま太陽近くでの接触軌道が \(e>1\) の軌道要素になっているだけで遠日点付近では \(e<1\) になっているものも多い(彗星は惑星の摂動を随時受けるので、軌道全体が一つの軌道要素(単純な二次曲線)で表されるわけではない)。中には惑星の重力で軌道を変えられて真に双曲線軌道となって太陽系から飛び去るものもいなくはないが、それでも離心率が 1.01 を超えるものはほぼいないようだ。詳細は Comet - Wikipedia - Long Period の節によくまとまっている。これまでで最も離心率が大きかった彗星は C/1980 E1(ボウエル彗星)で、元々は長楕円軌道だったものが1980年の木星との接近以降に \(e = 1.057\) の双曲線軌道になった。これと比べても今回の天体の離心率の異常さは明らかで、外から来たんだろうなと思わせる。


File:ʻOumuamua light curve simulation.gif - Wikimedia Commons

太陽系外小天体 1I/2017 U1 (ʻOumuamua) は長い。胡瓜か。いかにもそれっぽい想像図が描かれているが、形を直接撮像できたわけではもちろんなくて、明るさの変化からそう推測されるという話。推測の根拠となった光度曲線を見る。明るいときと暗いときで 2.5 - 3等くらい変光している。1等級差は 100 の5乗根倍なので、2.5等違うと (1001/5)2.5 = 10 倍明るさが違うことになる。これは、天体表面の反射率が均一だと仮定すれば、地球から見た面積が周期的に10倍変わっている、つまり長軸が短軸より10倍も長い胡瓜のような回転楕円体が短軸を自転軸としてくるくる自転していると考えられる、ってことらしい。一方、形が長いわけではなく反射率が均一でないせいで変光しているというモデルもありうる。球に近いけどものすごく黒っぽい面とものすごく白っぽい面が半々ずつあるとか。分光して色の情報を回転のフェーズごとに取れればなんか分かりそう。もし暗いときと明るいときでスペクトルが大きく異なるなら、表面の地質の違いが変光に寄与している可能性が高くなり、胡瓜説よりアルベド差説が有利になる。元の論文にはそのへんの考察もあるのかも。

長い小天体と言えばイトカワ。イトカワの光度曲線 (Fig.3) を見ると、極小と極大の光度差は 2.5 - 3 倍といったところ。イトカワの形を思い浮かべれば、まあそのくらいの変光になるのは納得。"asteroid light curve" とかで検索すると他の小惑星の光度曲線もたくさん見られるが、変光の度合はだいたい 0.5 - 1 等(1.5 - 2 倍)くらいが多い。10倍変わるというのは前代未聞には違いない。姿勢制御を失って回転する葉巻型宇宙船なのかもしれない。

ʻOumuamua の ʻ はハワイ語の okina と呼ばれる記号。Unicode でないと出せないので HTML では数値文字参照 &#x2bb; で書く。