ロケットの発射のイラスト「マスクと鼻水の女性」| かわいいフリー素材集 いらすとや

改良型 H-IIA。「静止軌道近くまで衛星を運べるようになった」とか、この記事だけ読んでも何を言っているのかよく分からず。詳しい文書が三菱重工の web サイトにあった。正式には「第2段の高度化開発」と呼ばれているらしい。

日本が商業衛星の打上げビジネスをやる上で不利な点の一つに、「種子島の緯度が高いせいで静止衛星の寿命が短くなる」という問題がある。静止衛星を打ち上げる場合、ロケットは衛星を静止軌道に直接投入するわけではない。近地点高度が200-300km、遠地点高度が静止軌道と同じ36000kmという長ーい楕円軌道(静止遷移軌道: GTO)に衛星を入れて、そこでロケットさんはさようならしてしまう。H-IIA と三菱重工のお仕事はここまでで終わりで、あとは GTO を回る衛星が遠地点まで来たところで自らに搭載されている小さなロケットエンジン(アポジーモーター)を噴くことで高度36000kmの円軌道に自力で乗り移り、静止衛星となる。

ここで、種子島は北緯30度にあるので、ここから打ち上げた物体の軌道傾斜角はどう頑張っても30度以下にすることはできない(種子島を通るように、かつ必ず大円となるように、地球儀に輪ゴムを巻くことを想像してみればよい)。しかし静止衛星は赤道上空(軌道傾斜角0度)を回るものなので、種子島から上げた衛星は GTO から静止軌道に乗り移る際にただ接線方向に加速するだけではなく、軌道傾斜角を30度から0度に変える分の仕事もしなくてはならない。一方、H-IIA の競合相手であるアリアンの場合、射点が仏領ギアナ(北緯5度)なのでもともと GTO の軌道傾斜角が小さく、傾斜角を変えるのに必要な燃料がほとんど要らない。静止衛星は運用開始後も太陽・月の重力や太陽光の輻射圧の影響で軌道がずれるため、日常的に軌道修正で燃料を使う。よって衛星の寿命は構成部品の寿命よりも「燃料が何年持つか」で決まる。種子島から上げた静止衛星は「軌道傾斜角を変える」という余分の仕事で最初に燃料を消費する分、仏領ギアナから上げた衛星よりも寿命が数年も短くなってしまうという。衛星打上げをブジネスとして受注する上でこれは痛い。

この短所を何とかするため、今回の H-IIA 高度化開発では「軌道傾斜角を30度から0度に変える」仕事もロケットがやってあげようということにした。ただしそのためには、GTO の近地点まで上がったところで衛星を切り離して「おつかれしたー」と終わっていたのをやめて、第2段と衛星を切り離さずにそのまま GTO の遠地点まで慣性飛行を続け、遠地点に着いたところで第2段エンジンを弱い出力で再々点火して軌道傾斜角を変えてあげてから衛星を切り離す、という段取りになる。ロケットさんとしては今まで長くてもリフトオフから7000秒(2時間弱)で仕事が終わっていたのが、遠地点まで飛行するとなると20000秒(5時間半)の長旅に変わる。長旅になると太陽熱を受けて液体水素がどんどん蒸発してしまうため、タンクの外面を白く塗って蒸発を防いだり、今までより大容量のリチウムイオン電池を積んだり、太陽熱が片側にだけ当たって温度が上がりすぎないように「バーベキューロール」と言ってロケットの機体をぐるぐる回転させながら飛ぶようにしたりと地味な改良がいろいろ必要になったという。そんな高度化改良を施したブランニュー H-IIA がカナダの通信衛星を載せて2015年中に打ち上げられるそうです。頑張れ。