テラー=ウラム型水爆の概念図 | Wikimedia Commons

今日の自習。なぜ水爆は原爆より2-3桁も強力なのか。ちゃんと説明できなかったので調べた。

Little Boy と Fat Man は TNT 換算で 10-20 kt の出力だった。過去最強の原爆 (Ivy King) の出力は 500 kt。一方、水爆は Ivy Mike が 10 Mt、第五福竜丸を被曝させた Castle Bravo が 15 Mt、史上最強と言われるソ連のツァーリ・ボンバが 50 Mt。大ざっぱに水爆は原爆の 100-1000 倍のエネルギーを放出できる。中高生の頃は核融合反応の方が核分裂反応より2-3桁大きいエネルギーを出すせいだろうだと漠然と誤解していたが、1核子当たりの結合エネルギーの図を見ればそんなわけはないことが分かる。この図の縦の標高差に核子数を掛ければ、1個の U や Pu の核分裂で出るエネルギーは 200 MeV くらい、H/D/T の核融合で出るエネルギーは 15-20 MeV くらいとなる。1反応当たりで比べると核融合は核分裂の 1/10 のエネルギーしか出さない。

いや、爆弾に使うんだから同じ質量の塊で比べないとな。原爆のコアに使う U や Pu は質量数 240 くらい。水爆のセカンダリーに使う 6LiD は分子量 8 なので、同じ質量の U/Pu と LiD の塊を比べると LiD の方が30倍くらいモル数が多い。1回の反応で出るエネルギーは上記の通り核融合が核分裂の 1/10 なので、掛け算すると同質量の U/Pu 塊と LiD 塊が出すエネルギーは(理想的に全部反応したとして) LiD の方が3倍くらい大きい。しかしたった3倍。100倍や1000倍ではない。

でまあお正月にいろいろ読んだ結果、

という違いが本質なのだろう、と理解した。

大抵の水爆はおにぎり(プライマリー)と海苔巻(セカンダリー)を並べて入れた細長い弁当箱のような構造をしている。おにぎりは普通の爆縮型原爆。燃え残りを減らすためにちょっと D や T が添加されていたりする(ブースト型原爆という)。海苔巻はかんぴょう巻のようになっていて、中心のかんぴょうが 239Pu の芯(点火プラグ)、その外側のシャリが核融合の燃料となる LiD、一番外の海苔が 238U のタンパー。海苔といってもかなり分厚く硬く、両端も閉じて密閉されている。おにぎりと海苔巻以外の空間には発泡スチロール(ここは例えでなくマジで発泡スチロール)が詰められている。爆発の過程は以下の通り。

  1. 最初におにぎりがグシャッと潰れて核分裂が起き、分裂片やら中性子やら放射線を大量に出す。
  2. これらが弁当箱の内壁を蒸発させたり中に詰まっている発泡スチロールをプラズマ化させて高温高圧の環境を作る。
  3. 高温高圧のプラズマに押されて海苔巻はまるごと外から潰される。
  4. 同時に海苔巻の芯にあるかんぴょう (Pu) に中性子が当たって核分裂を起こし、内側からも押される。
  5. 海苔巻のシャリ (LiD) は内と外から同時に圧縮され、ついでに中性子によって 6Li が T に変わり、D+T の核融合を起こす。
  6. 最後に、核融合で発生した大量の高速中性子が海苔巻の海苔 (238U) に当たって海苔全体も核分裂を起こし、弁当箱も蒸発して全てが火の玉になる。

おにぎりの核分裂 → 海苔巻のシャリの核融合 → 海苔の核分裂 と反応が進むので 3F 爆弾 (fission-fusion-fission bomb) とも呼ばれる。「♪星より明るくスリーエフ」ってそういう意味だったんだな。(違

こんな感じで、水爆といっても出力の内訳は核融合オンリーではなく、シャリの核融合と海苔の核分裂の寄与が両方含まれている。Ivy Mike ではシャリの部分に LiD ではなく液体の重水素を使っていたが、10 Mt の出力のうち 3/4 は海苔の核分裂によるエネルギーで、シャリの核融合の寄与は 1/4 に過ぎなかったらしい。Castle Bravo も 15 Mt のうち 10 Mt は海苔の核分裂の分。海苔が核分裂すると大量の核分裂生成物が出て環境が汚染されるのであまり良くない。最近の水爆はもう少しクリーンなのかもしれないが。

地震の規模から推定された今回の北朝鮮の核実験の出力は3年前と大差なく、7 kt くらいとの見積もり。水爆で 7 kt ってしょっぱい話はないだろうというわけで、原爆に D,T を添加して燃え残りを減らし出力を上げるブースト型原爆(しかも全然ブーストできてねぇ)なのでは、という話らしい。