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高校化学でわかる「コーラで歯が溶ける」がウソである理由 - ねとらぼ。やけに挑発的なフェイクニュース。
だからコーラで歯が溶けること(酸蝕歯)はありえません、起こるのは酸蝕歯ではなくコーラの糖分で虫歯(齲蝕)になるだけです、という論旨。
実際にはこれは間違いで、コーラ (pH 〜 2) で酸蝕歯は起こる。pH が 5.5 より小さい液体で歯が脱灰するという話には今更議論の余地はない。まず「歯がリン酸カルシウムである」という認識が大ざっぱすぎる。カルシウムのリン酸塩にはいろいろあり、歯のエナメル質は Ca3(PO4)2 ではなく、ヒドロキシアパタイト (HA) Ca5(OH)(PO4)3 という物質。組成式に OH- が入っているのがミソ。これが水に溶けると、
\[ \ce{Ca5(OH)(PO4)3 <=> 5Ca^2+ + OH- + 3PO4^3-} \] \[ \ce{PO4^3- + H2O <=> HPO4^2- + OH-} \]
という化学平衡の状態になる。つまり HA が水に溶けると OH- がたくさん出て液性がアルカリ性になる。高校化学で言う「塩の加水分解」ですかね。こういう平衡状態に酸が加わると、右辺の OH- が H+ で中和されて減るので、ルシャトリエの原理によって平衡は右にずれる。だから HA は酸に溶ける。弱酸遊離を持ち出してこれが起こらないと言うのはおかしい。
ただしもう一段上の話として、HA は酸さえあれば無限に溶け続けるわけではなく、溶け出したイオンが飽和する点があり、飽和点は pH に依存して決まるという性質がある。これは HA の溶解度積とか難しいことを考えないと理解できんらしい。ともあれ、ちょうど飽和する pH を臨界 pH と言って、HA の場合はこれが pH = 5.5 くらいになっている。溶液がこれよりも酸性寄りであれば溶解が進む(脱灰)。5.5 よりもアルカリ性寄りなら平衡が左にずれて HA の結晶化が進む(再石灰化)。唾液の中にはカルシウムイオンとリン酸イオンが大量にあって常に過飽和状態になっているため、通常はエナメル質は唾液によって常に再石灰化されている。酸性の飲食物や胃酸の逆流によってお口の中の pH が下がった状態が続き、脱灰が進むと酸蝕歯になる。もしくは、虫歯菌がいると糖を食べて乳酸を作るので、この乳酸で pH が下がった状態が続いて脱灰が進むと虫歯(齲蝕歯)になる。
…という話をこの論文を読んで学んだ。高校化学とかもう完全に忘れてるわ。
なお、上記の臨界 pH の実験は数日から数週間というタイムスケールで系が平衡に達した状態で求めているので、コーラを飲むような数分〜数十分とかいうタイムスケールで酸蝕なんか起きるわけないだろという歯科医もいる。ねとらぼの記事もこれを引用していたようだが、酸性のものを習慣的に摂って酸蝕歯になった症例についても論文がある。コーラを習慣的に飲んでいた人、黒酢を数年間にわたって朝晩コップ1杯飲み続けた人、グレープフルーツを3か月にわたって1日2玉食べ続けた人などの酸蝕歯の症例写真を見ることができる。俺も歯科助手のお姉さんに言われたことがあるが、炭酸飲料や甘い飲み物やお菓子を仕事机に置いてちびちびだらだら飲食しながら作業をするのは歯にとっては自殺行為らしい。ダメ、ゼッタイ。
2018/01/17: 記事に間違いありとしてねとらぼが取り下げた模様。ねとらぼにしては殊勝だ。訂正前の魚拓。