火星探査機・マーズローバーのイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

映画『オデッセイ』を見て、火星は大気が薄いので、強風が吹くといっても地球の嵐のようなことにはならないのでは、とちょっと疑問。計算してみる。

風速 v の風が及ぼす圧力 p は、大気の密度を ρ とすれば \( p = \frac{1}{2} \rho v^{2} \) となる。地球表面での大気の密度は 1.2 kg/m3、火星表面でのそれは 0.02 kg/m3 なので大気の密度は地球の 1/60。よって火星の風が地球と同じ風圧を及ぼすためには、風速が地球の \( \sqrt{60} = 7.7\) 倍大きくなければならない。

ただし火星は表面重力が 3.71 m/s2 しかない。これは地球 (9.8 m/s2) の 37 %。よって、「風の力」を風速だけで比較するのは適切でない。静止摩擦力で止まっている物体が風で押されて動く、といったケースを考えると、火星では地球の 37% の力で同じように動かせる。よって大気密度と重力の両方を勘案すると、火星の風が物体に対して地球の風と同じ仕事をするためには、風速が地球より \( \sqrt{60} \times (3.71 / 9.8) = 2.93 \) 倍大きくなければならないということに。まあ3倍ですね。台風で風速 15 m/s 以上の領域は強風域、25 m/s 以上は暴風域とされるが、火星で同じ仕事をする風速に換算すると、火星では「45 m/s 以上なら強風域、75 m/s 以上なら暴風域」ということになる。

火星表面の風速のデータは、web を探してもいまだにヴァイキング探査機の観測値くらいしか出てこないのが不思議だが、とにかく夏は 2-7 m/s、秋は 5-10 m/s、砂嵐のときで 17-30 m/s くらいらしい。地球換算だと 1/3 だから、最大風速でも地球の風で言うところの 10 m/s 程度の力にしかならない。

まあそんな感じで、映画のような大被害をもたらす風というのは考えにくい気もするが、ヴァイキングの観測値が絶対ということもないので、これの2倍くらいの風速になれば台風並みにはなる。全くの設定ミスとも言えないか。