褐色矮星の連星系「Luhman 16AB」| ESA/Hubble & NASA, L. Bedin et al.

ワルツを踊る褐色矮星。褐色矮星同士から成る連星系を HST で撮った図。これ、俺も最初勘違いしたんだけど、このω字形の軌跡が連星の軌道運動なんじゃなくて、これは2年分の年周視差が見えてるだけなんだよね(観測期間が3年間と書かれているが、「足掛け」3年が正しい。元論文を読むと正確には2年1ヶ月くらい)。地球は1年で太陽の周りを公転するので、近くにいる星を1年観測すると背景の天体に対して楕円を描くように動く(これを年周視差と呼ぶ)。それと同時に、太陽系も相手の星も銀河系の中を公転運動しているので、地球から近くの星を見ると一方向に少しずつ動いていくようにも見える(これを固有運動と呼ぶ。何万年も経つと星座の形が変わるというのはこれが原因)。2年分の年周視差と固有運動が合わさって、受話器のケーブルを引き延ばしたみたいなω字形の軌跡になっている。元の NASA の記事で年周視差に一言も触れていないのが不思議。自明だと思って省いたのか、NASA のライターも勘違いしているのか。

この連星系はケンタウルス座α・バーナード星に次いで太陽から3番目に近い恒星系(距離約6光年)なので、年周視差も3番目に大きい。年周視差は 1pc で1秒角なので、6光年(約 2pc)だと約 0.5 秒角となる。HST の典型的な分解能は約 0.1 秒角なので近い恒星なら十分に年周視差が写る。実際の年周視差をこういう風に可視化した画像はまぁ確かに珍しいかも。

動画を見ると分かりやすいが、二つの星がω字形に動きながらだんだん重なるように見える。この、2星の距離が詰まりながら互いの向きが変わっていく動きこそが、連星としての軌道運動に当たる。年周視差と固有運動を差し引いた軌道運動だけの図が論文の Figure 4 に出ているが、2年間の観測では 1/10 公転くらいしか回っていない。今回の観測で求まったパラメタは、連星の軌道長半径が 1.91±0.25 秒角、軌道周期は 31.3±7.9 年。年周視差は 0.501 秒角、固有運動は (μα cos δ, μδ) = (-2.762, 0.354) 秒角/年。軌道長半径・年周視差・固有運動が三つとも同オーダーなので、あと何十年か観測を続けると、二つの星が描く2本の螺旋が31年周期で近づいたり離れたりするような、もう少し複雑な軌跡が見えてくるはず。