西武安比奈線とは、西武新宿線の南大塚駅から入間川の河川敷まで伸びている貨物線です。入間川の砂利を運ぶための路線で、昭和42年まで列車が走っていたそうです。今は事実上の廃線状態ですが、手続き的には「休止線」ということになっているらしく、西武鉄道の資料でもまだ生きていることになっているらしい。
架線やレールを残したまま朽ちかけている姿が世の廃線ヲタさん達を萌えさせている、鉄道廃線界の人気路線です。
小学生の頃、友人達と自転車でこの安比奈線を見に行きました。実際には安比奈線を見に行ったのではなくて、安比奈線跡に捨てられているエロ本を見に行く、というのが遠出の理由だったような気がします。自転車でこんなに遠くまで出かけたのも、エロ本をまじまじと見たのも初めてだったという画期的事件でした。ある種「スタンド・バイ・ミー」的な思い出です。
そんなガキの頃の記憶を確認するため、去年と今年、再び自転車で見に行ってみました。
レールも架線も残っているにもかかわらず、現在の地形図には安比奈線は描かれていません。植生の境界線などでわずかにそれと分かるぐらいです。僕が中学生の頃の地形図には「建設中または運航休止中の普通鉄道」の記号でちゃんと描かれていたのですが。
昔はここに線路が扇状に広がった操車場があったらしいのですが、今は朽ちた架線柱があるだけです。
埋まったレールを一生懸命掘り返した跡がありました。マニアな人達がやったのでしょう。
いたるところ草です。昭和42年までここに駅があって貨物列車が走っていたとはとても思えません。
格好のゴミ捨て場になっています。中には制服やブルマーなんかも捨ててあります。去年来た時には、セーラー服を着た男性が写っているポラ写真が一緒に捨ててあったりして洒落にならないくらい怖かったのですが、今年はなくなっていました。
このあたりは四駆やモトクロスバイクの練習場になっています。垂れ下がった架線があはれです。
操車場跡から上り方面を望む。架線柱の連なりがわずかに昔の名残をとどめています。
このあたりはレールが埋まらずに残っています。このおじさんは何をしていたんだろう。
レールが2列見えます。昔は線路が6本あったらしいのですが、今確認できるのは2本だけです。
向こうに見える橋は水道橋です。上の地形図で八瀬大橋の南側に棒状に描かれているやつです。
このあたりの架線柱はやや立派です。複線で線路が走っていたのかもしれません。
小学生の頃に訪れた時には、このあたりにプラットフォームを思わせるコンクリートの大きな塊があったり、石油タンクのような形の貨車が残っていた記憶があるのですが、現在は全く確認できません。つる草が猛烈に生えているので、その中に埋もれているのかも知れません。冬に来るといいかも。
建設残土の小山に登って操車場跡を眺めてみました。幅広の立派な架線柱が2列残っていることが分かります。
水道橋の下。ここに操車場の線路群を束ねるポイントの一つが残っています。左側の金網は犬小屋。激しく吠えられました。ここにはワゴン車があってホームレスらしき人が暮らしているようです。
畑仕事をする人や建設業者が頻繁に出入りするせいか、このあたりはレールがほぼ埋まることなく残っています。
そして突然レールが途切れます。ここが八瀬大橋。橋ができる前はつながっていたらしい。
橋脚の反対側。橋の工事で外されたと思われるレールが脇に積まれています。いまだに安比奈線が「休止線」扱いになっているのは、安比奈操車場跡に西武が車両基地を作る計画があるためだ、という噂もあるのですが、この八瀬大橋の有無を言わさぬ造り方を見る限り、そのような可能性はほぼないだろうと言われています。
橋の東側から上り方面を望む。このへんも草が生い茂っていてレールがほとんど見えないですね。
八瀬大橋の東から先は架線がちゃんと張られた状態で残っています。
木の根がレールの下に入り込んでいます。このあたりの枕木はほぼ全部朽ちてなくなっています。
橋の下から覗いてみたり。小学生の頃に来た時は、この橋の下の窪地に大量のエロ本が捨てられていたのでした。周りの風景は当時とはすっかり変わっています。懐かしい。
がーん。橋の銘版部分が削り取られていました。去年来た時には↓の通り、ちゃんと残っていたのに。西武鉄道が消したのか、心ないファンが剥して転写して持ち帰ったのか…。
去年の写真。「昭和38年5月1日 池辺用水橋梁 朝陽塗装工業K.K.」と書かれています。その頃までは路線のメンテナンスがなされていたということですね。
鉄橋を「引き」で撮る。ここで自転車に乗ったおじさんに声をかけられ、安比奈線についてあれこれ質問されました。そのおじさんも高校生の頃、この線路のことが気になって全線歩いてみたことがあったそうです。
鉄橋の先の道路を渡ったところ。架線柱に何か別の真新しい電線が架かっています。何だろう。普通の電柱として流用されているのでしょうか。
線路はまっすぐ雑木林の中に入っていきます。安比奈線の中で最もフォトジェニックな風景でしょう。ここの写真は鉄道廃線の本や雑誌などで何度となく紹介されています。
うーん、このデジカメは光線の具合でずいぶん色調が変わるなあ。
雑木林の出口から来た方向を見る。秋の落葉の頃に来たらきっと美しいでしょうね。
林の出口。こんな感じで一応あちこちに「立入禁止」の看板がありますが、脇から普通に入ることができます。しかし鉄橋の上から転落して万一怪我でもすれば西武鉄道に迷惑がかかりますし、本当に完全立入禁止になってしまうかも知れないので、くれぐれも無茶はしないようにしませう。
田園地帯をまっすぐ線路が進んでいきます。道路が並走していますが、この道も地形図には描かれていません。
いきなりコンクリート製の架線柱が。この1本だけなんですが、なぜこれだけこんなにきれいなんでしょう。休止直前に立て直したのでしょうか。
このあたりの線路敷は特に盛土してあるわけではなく、周囲とほぼ同じ高さです。この写真の左手には民家の庭が続いていました。
第4の橋。上の地形図で「大袋」と書かれている「袋」の字のやや南、道路がくの字に折れながら川と交差しているところです。
第4の橋の直後にある第5の橋。ここは家のすぐ横を線路が走っています。
来た道を振り返る。逆光だったのでデジカメが勝手に露出をアンダー目にしてしまった。日が暮れかけてちょっと切ない感じ。
橋に必ず付いている、このレール横のL字鉄材は何なのでしょう。
去年この第6の橋を訪れた時の写真。橋の手前で脇道に下りるのを忘れてしまったので、むりやり自転車のまま橋を渡ってみたのですが、バラバラ状態の枕木の間に自転車の車輪が落ちてしまい、危うく自転車ごと橋の下に転落しかかりました。マジ死ぬかと思いました。危険なのでやめましょう。
第6の橋の直後にある第7の橋。この橋はかなり高さがあるのでさすがに渡ることはできません。
第7の橋を過ぎると田園地帯は終わり、あとは国道16号に向かって民家の間を通り抜けていきます。このあたりは線路が花壇代わりに使われていて、綺麗な花がたくさん植えられています。
このあたりにも「立入禁止」の札はありますが、完全に地元の人の通路として使われています。
国道16号線との交差地点。道路の上にもちゃんと架線が張られています。現在の16号線の交通量からすると信じられませんが、昭和40年代まではここは実際に踏切になっていたものと思われます。
踏切設備のものと思われる箱が残っています。踏切信号機の柱も根っこだけ残っていました。
国道16号を渡ると南大塚駅に向かって大きく右にカーブします。
南大塚駅から、今まで来た方向を見る。ここで線路は途切れていますが、その横に真新しい線路の切れ端が造りかけになっています。
南大塚駅を望む。上の新しい線路ですが、道路の反対側も造りかけで切れています。新しい引込線でも作るのでしょうか。ともあれ、ここで安比奈線はおしまいです。
南大塚駅前商店街にあるラーメン屋、「チャーシュー力」。「迷わず並べよ 食べれば分かるさ」と書かれています。店の名に違わず、店内には長州のスポーツ新聞記事がたくさん貼られています。ちなみにラーメンはかなり濃いめの豚骨系。まあまあうまかったです。